RAVELIN
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The Daibo Coffee Manual
The dark and secret Tokyo Cafe has a life after death
Text: Anna Sherman
B&W Photos: Mikio Hasui
Special thanks: Kaori Inui Ungerer, Nobuo Yamada (CENTRAL PARK)
日本語訳
The Daibo Coffee Manual
The dark and secret Tokyo Cafe has a life after death
カウンターは、ひとうねりの長い波が打ち寄せるように奥の壁から入口のドアにまで届かんとするような木の厚材でした。そしてそこにはいつも花が活けられ、竹のブラインドをとおして差し込む日の光に照らされていました。冬には椿。夏には東京に残る空地から摘んできた野の花。
そしてコーヒー、もちろんコーヒー。コロンビア産、エチオピア産、ケニア産の豆。店内で焙煎され、大坊さんが手仕事で傷んだ豆をより分けます。鋼のやかんの口からフィルターのコーヒーの大地へときらきらつながる熱湯のしずくの鎖。お湯を注ぐ大坊さん自身は決してぴくりともしません。手首と手だけを例外として、大坊さんは石のように静謐でした。
東京は万華鏡のように移ろいゆく街です。すべてのものが移り変わって行きますが、大坊珈琲店は違いました。38年間、大坊珈琲店はいつも同じでした。電球が壊れたことがあったかもしれませんし、ピンク色のプラスチックの旧式電話は取りかえられ、カウンターの木材そのものもゆっくりと反りを帯びていきましたが、本質的なものは何一つ変わりませんでした。
建築家の槙文彦氏によれば、東京にはかつて暗い秘密の場所がたくさんあったといいます。ディスニーランドができる前、ミッドタウンや六本木ヒルズの巨大なガラスのアトリウムが建てられる前の東京は、陰-「物理的な世界というよりもイマジネーションの世界、すなわち、いかなる瞬間にも新しい方向へと広がりうる世界」という意味での-を保ち持つ街だったと。大坊珈琲店はそういう場所の一つでした。東京という街の他の場所から来た人たち、日本のほかの県から来た人たち、あるいはほかの国から来た人たちにとって、大坊珈琲店は、避難所であり、隠れ家であり、ふるさとでした。
大坊珈琲店が2014年の年明けを前に閉店したとき、大坊さんが築いてこられたものが失われてしまうのではないかと心配しました。一度でも、あるいは、千回以上でも、大坊珈琲店で一杯のコーヒーを飲んだことのある人は、みな悲しみました。
けれど、たとえ建物は壊されても、大坊珈琲店は再起しました。人々の記憶、本、アメリカのドキュメンタリー、雑誌、ネットのブログの中で、大坊珈琲店は、いきいきと余生をおくっています。あの有名な木のカウンターは、今、新しい「コーヒー・ルーム」に浮かび、大坊さんご自身が「どうしましょう?」とお客さんを迎えてくれます。
Text © Anna Sherman
Translation: Kaori Inui Ungerer
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